需要予測どおりのモノレールの現状はいかに

〜ゆいレール2005年度決算レポート〜

2007.2.13

 

 さてこれまで当HPでは2度に渡って北総鉄道のレポートを作成して来ました。しかし世の中には3セクで作られる新線がたくさんあります。2000年以降で見ても埼玉高速鉄道、つくばエクスプレス、多摩モノレール、みなとみらい線3セクではありませんが福岡市や神戸市、大阪市等で地下鉄の新規路線が開業しています。また路線延長も数多くあります。その中では埼玉高速鉄道や福岡市営地下鉄のように需要予測を大きく下回りかつての北総鉄道の様に経営問題が大きくのしかかっている路線もありますが私の地元横浜のみなとみらい線や沖縄のゆいレール、つくばエクスプレスの様に需要予測を満たす、あるいは満たしてないまでも需要予測90%前後の高い実績を上げ、少なくとも誤差の範囲内に収まっていると考えられる路線も多く見られるようになりました。

 ただ需要予測を満たしているからと言って経営問題が全く無いのでしょうか?ふと考えていた際こんな新聞記事が目に留まりました。

 

 沖縄タイムス2006820日社説[モノレール再建計画]県民の支持が絶対条件

沖縄都市モノレール社が中長期経営計画を発表した。

 開業時の多額な設備投資を背景に累積損失が年々増大し、長期にわたる資金不足状態を解消できないという厳しい収支構造を強調。改善に向けた自助努力策を打ち出しながらも、資金面を含む行政の積極的な支援が不可欠と訴えている。

 同時に、乗客数が着実に増える中でも単年度赤字が持続し、安定的な経営が難しい同社の苦悩も浮き彫りにしている。

 同モノレール社は一九八二年、県と那覇市、民間企業二十三社が出資する第三セクターとして設立された。 〜中略〜

 好調な利用状況を受け、〇五年度の営業収益は前年度比9・6%増の二十四億一千八百万円を計上した。

 半面、減価償却費が二十三億八千七百万円と大きく、最終損益は十六億八千三百万円の赤字を余儀なくされている。

 経営を圧迫しているのは初期投資に伴う約三百二十億円の借入金返済だ。

 同社がモノレール基金を活用した無利子貸し付けや長期借入金の返済期間延長、固定資産税減免などの行政支援を求めるゆえんがここにある。 〜以下略〜

 

 抜粋した部分からだけ類推すると「いかにも伸びているように見えるけど実は需要予測が外れて大慌てしている路線だな」と感じるのですが、実際はどうでしょうか?

 

年度

乗車人員

需要予測

2003

31905

31350

2004

32049

32258

2005

35940

33197

1:ゆいレール1日の利用者推移と需要予測(青太字:予測上回った年度、赤字:予測下回った年度)参照:沖縄県都市計画・モノレール課利用状況報告より

上の表は沖縄県の資料から作成した物ですが開業2年目の2004年度は需要予測をわずかながら下回るものの、基本的には需要予測をクリアしている状況で、特に2005年度は需要予測を8%も上回る好調ぶりを見せています。そんな利用好調、利用者数に関して言えば北総のように「失敗」から程遠い状況なのに何故「経営再建」なのか?ここでは2005年度の決算を見つつゆいレールの状況を少し分析して行こうと思います。

 

1、     務超過寸前のモノレール

ゆいレール2005年度決算概要〜

 

P/L

 

 

項目

金額

 

営業収益

2418458

 

うち運輸収入

2313563

95.7%

うち運輸雑収

104894

4.3%

営業費用

3317679

 

うち経費

1328816

54.9%

うち減価償却費

1988863

82.2%

営業損益

-899221

 

営業外収益

9846

 

営業外費用

770275

31.8%

うち支払利息

371049

15.3%

うち開業費償却

398204

16.5%

経常損益

-1659651

 

特別損失

20149

 

税引き前当期損益

-1679800

 

法人税等

3800

 

当期損益

-1683600

 

1:ゆいレール2005年度損益計算書(単位:1000円、赤字:損失、太字:営業収益に対する割合が50%以上の支出項目)

 まず損益計算書を見ると減価償却費が20億円弱と営業収益の8割以上と言うレベルに達しており、その結果17億円近い赤字を生み出している事が分かります。

 また開業費償却が4億円弱あり赤字の一翼を担っています。下記貸借対照表を見るとあと2年で償却は終わると推測され2008年度には現在の赤字の約14が解消される物と考察されます。とは言えそれを除いても資本費が約23億円で営業収益と拮抗する状態は変わりなく90年代の北総線同様損益の問題で大きな課題となっています。

 

B/S

 

 

 

 

資産

 

 

負債・資本

 

流動資産

1096377

 

流動負債

1444695

うち現・預金

849939

 

うち短期借入金

1144368

固定資産

30401839

 

固定負債

29360298

うち有形固定資産

29967986

 

うち長期借入金

29296181

繰延資産

796408

 

負債合計

30804993

うち開業費

796408

 

資本金

7333650

資産合計

32294625

 

利益剰余金

-5844018

 

 

 

資本合計

1489631

 

 

 

負債・資本合計

32294625

2:2005年度ゆいレール貸借対照表(単位:1000円、赤字:損失)

 続いて貸借対照表のほうを見て行きましょう。長期債務が約293億円と大きくその返済が大きな課題となるのが分かります。また現状の資本合計が約15億円と今期の当期赤字額を2億円ほど下回っているため、2006年度か2007年度には債務超過に突入する状況にあると言えます。

現状のゆいレールは減価償却費を中心とした資本費の負担で債務超過寸前にある

 

2、赤字が意味する物は〜詳細分析〜

 項目

ゆいレール

湘南モノレール

北総鉄道

東葉高速

減価償却費

1989

344

2229

6017

支払利息

371

42

2072

5338

開業費償却

398

0

0

0

資本費合計

2758

386

4301

11355

減価償却割合

72.1%

89.1%

51.8%

53.0%

3:減価償却費/資本費割合比較(単位:百万円※鉄道以外の事業含む)

 項目

ゆいレール

湘南モノレール

北総鉄道

東葉高速

固定資産

30401

4679

98618

273377

減価償却

1989

344

2229

6017

減価償却/固定資産

6.5%

7.4%

2.3%

2.2%

4:減価償却費/固定資産割合比較(単位:百万円※鉄道以外の事業含む

 上の表はゆいレールと他のモノレールの代表として神奈川県の湘南モノレール、一般の鉄道の代表として千葉県の北総鉄道と東葉高速鉄道の減価償却費を比較した物です。当然各社規模が違うのでそれぞれ資本費全体と固定資産との比較になっています。

 これを見るとモノレール2社の減価償却費の割合が鉄道2社の物に比べて非常に大きいのが分かります。

 特に固定資産比ではモノレール2社は鉄道2社の3倍前後と言う非常に高い割合となっています。これの意味する物は果して何でしょうか?

 

産業活力再生特別措置法に基づく事業再構築計画の認定について(北九州高速鉄道株式会社)by国土交通省@2005年7月28日より

(1)事業再構築計画に係る事業の目標
 北九州高速鉄道株式会社は、昭和60年1月9日に小倉(現平和通)・企救丘間8.4kmを開業し、平成10年4月1日のJR九州小倉駅までの延伸開業を経て、現在、小倉・企救丘間8.8kmの軌道事業(モノレール事業)を経営している。
 輸送人員は平成16年度において約1,135万人(1日平均約3万1千人)であり、北九州市民の重要な交通機関として定着している。
 平成10年度以降は単年度黒字の計上を継続しているものの、開業後20年を経過し、今後、100億円にものぼる車両・変電設備・運行管理システム等の大規模更新が予定されていることから、これに備えて財務体質を強化する必要があるが、初期投資等に係る借入金等により、平成16年度末で約148億2千万円の債務超過状態にある。
 このため、北九州市等からの出資金82億円の100%減資を行なった上で最大株主である北九州市を引受先とする第三者割当増資を実行し、累積損失を解消するための無償減資を実施するなどの施策を含め、更なる財務体質の改善を検討していくこととした。

 

 上の引用は北九州モノレールが産業再生法の適用を申請した際に出た国土交通省のプレスリリースです。解釈は難しいですが雪印が品質管理の不祥事で実質的に倒産状態に追い込まれたときにも活用されている事から北九州モノレールも倒産とは言いませんがかなり厳しい状況にあったことは間違い無いと思われます。注目したいのは申請当時、累積では赤字でも単年度では黒字を7年連続で続けている事、そして開業から20年程度と北総鉄道1期線より6年新しく2期線に比べても6年古い程度とそれほど古い時期の開業でもない事、それでも100億円もの設備更新投資のために産業再生法を申請した事です。

 翻って考えるとモノレールが鉄道に比べて減価償却費が高いのは、大規模設備更新へのスパンが短くかつ投資規模は膨大になる為であり、北九州モノレールの現在の状況は必ずしもゆいレールにとって他人事では無いと考えられます。

モノレールは鉄道に比べて大規模設備更新のスパンが短く規模も膨大な為減価償却費負担が大きく、ゆいレールが負担に耐え切れなければ産業再生法を申請した北九州モノレールの2の舞になる確率はきわめて高い

 

3、需要予測の示す物〜近未来シミュレート〜

 

C/F

 

項目

 

償却前営業損益

1089642

支払利息

371049

営業CF

718593

年間支払額

2,156,780

資金不足額

1,438,187

営業収益

2418458

不足額営業収益比率

59.5%

必要額

3856645

5:ゆいレール資金不足額試算(単位:1000円)

 上の表はゆいレールの資金不足額を試算したものです。前提条件としては前章の北九州モノレールでは開業20年後の2005年に設備更新投資額の調達のために産業再生法の適用を申請しました。それを繰り返さないと言う考えの下20年目までに借入金完済と言う前提で、かつ現在3年目で開業費の償却が5年目まで続く事が分かっている為、返済スタートを6年目にし20年目までの15年間で返済を行うと言う仮の計画の下で算出した数字です。詳細な条件は

     年間金利:1.3%(支払い金利と長期借入金額から試算)

     支払方法:均等支払い

 これを見ると返済資金の確保の為には60%弱の増収が必要と言う事になります。それではこれだけの増収、乗客増加によって早期の達成は可能でしょうか?見て行きましょう。

 

 年度

京成千原

指数

指数(3年目)

東葉高速

指数

指数(3年目)

ゆりかもめ

指数

指数(3年目)

1

2194

100

 

71273

100

 

27183

100

 

2

2821

129

 

92418

130

 

64468

237

 

3

3347

153

100

100287

141

100

71553

263

100

4

4081

186

122

103708

146

103

78196

288

109

5

4300

196

128

108970

153

109

96578

355

135

6

4488

205

134

113297

159

113

104279

384

146

7

4572

208

137

115971

163

116

103592

381

145

8

4697

214

140

115275

162

115

100701

370

141

9

4982

227

149

114643

161

114

94658

348

132

10

5174

236

155

 

 

 

89027

328

124

6:90年代開業新線の乗客推移(1日辺りの乗車人員、単位:人/日、京成千原は学園前〜ちはら台間のみ、参照:東京都統計年鑑(ゆりかもめ)、千葉県交通計画課(京成千原、東葉高速)、赤太字:乗客減少初年度、赤字:乗客減少年度)

 上の表は90年代中盤に開業した都市型第3セクターの鉄道、新交通システムの乗客推移です。各線首都圏で、ゆいレールのように鉄道の全く無い地区での開業では無いですが、一応の参考として挙げて見ました。また今回のレポートはゆいレール開業3年目での物なので分かりやすく3年目の乗客数を基準にした指数も出してみました。特徴を整理すると

・京成千原線は最新年度である10年目でも増加を続け開業年度の2.4倍弱、3年目からでも55%もの増客を達成しているがわずかながら返済基準には届かない

     東葉高速、ゆりかもめはそれぞれ8,7年目に1度目のピークを迎え減少傾向に陥っている

     東葉高速は3年目以降増客が思わしくなくピークの7年目でも3年目の16%しか増客で来ていない

     ゆりかもめはピークが6年目と早い物のそれまでの増客は旺盛でピークには3年目の46%増加となっている

それでは実際の経営、返済状況と比較するとどうでしょうか?

 

 

A乗客

B乗客

C乗客

A収入

B収入

C収入

2005

35940

35940

35940

2418458

2418458

2418458

2006

43822

39277

37166

2948828

2642988

2500957

2007

46173

48510

39052

3107072

3264291

2627852

2008

48192

52378

40602

3242916

3524597

2732199

2009

49094

52378

41561

3303612

3524597

2796683

2010

50436

52378

41561

3393934

3524597

2796683

2011

53497

52378

41561

3599868

3524597

2796683

2012

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2013

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2014

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2015

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2016

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2017

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2018

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2019

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2020

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2021

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2022

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

2023

55558

52378

41561

3738602

3524597

2796683

7:表6の推移を基にした乗客・収入のシミュレート(A:京成千原ベース、B:ゆりかもめベース、C:東葉高速ベース、乗客:人/日、収入:1000円、赤字:資金不足、赤太字:収入30億円未満)

 上は表6の各社の乗客推移を基に作成した2023年までの乗客数、収益の推移です。条件としては

     最初の減少前ピークで乗客数頭打ち(京成千原ベースのA10年目で頭打ち)

     営業収益は乗客数の正比例

当たり前の結果ではあるのですが京成千原ベースのA、ゆりかもめベースのBは良い所まで行っても資金不足は解消されず、東葉高速ベースのCは資金不足解消には程遠い状況です。

さて今後の展開の予測としてはAを上位、Bを中間、Cを下位としたいところですが、実際これまでは推移をほぼ的中させたと言って良い当局はどの様に考えているのでしょうか?

ゆいレールの整備効果と需要喚起アクションプログラム(案)と言う沖縄県が出しているゆいレール活性化プログラムに関する文書があるのですが、これを見ると以下のように書かれています。

モノレール運賃申請(平成152003)年5月)及び沖縄都市モノレール褐o営目標の観点から平成232011)年度までに利用者数4万人の達成する事を目標としています。

 

 これを見ると最も悲観的な東葉高速ベースのCをも下回る目標となっていて需要予測もこの辺である事が分かります。実際達成は可能かもしれませんが返済や黒字化には程遠い数字である事も分かります。

と言う事で東葉高速ベースのCでシミュレートしてみました。

前提条件としては

     金利は1.3%(2005年度決算の支払利息/長期借入金)

     返済期間は27年の均等払い

     乗客数・それに伴う営業収益は東葉高速のベースC2009年度で頭打ち以降増減なし)

     減価償却費は定率6.5%償却

     開業費償却は2007年度まで定額償却

     黒字転換前の法人税は3800千円均一、黒字後は青色申告による累損との相殺が4年間、以降は黒字額に40%の法人税課税

と言う前提条件で行いました。それでは北九州モノレールが産業再生法を申請した21年目である2023年度まで見て行きましょう。

 

年度

収入

減価償却費

経費

支払利息

開業費償却

経常損益

税金

当期利益

累積損益

長期借入金

現金

2005

2418458

1988863

1328816

371049

398204

-1659651

3800

-1683600

-5844018

29296181

849939

2006

2500957

1859587

1328816

371049

398204

-1456699

3800

-1460499

-7304517

28379318

730367

2007

2627852

1738714

1328816

359437

398204

-1197319

3800

-1201119

-8505636

27450842

737691

2008

2732199

1625697

1328816

347677

 

-569991

3800

-573791

-9079427

26510606

849361

2009

2796683

1520027

1328816

335768

 

-387928

3800

-391728

-9471155

25558462

1025516

2010

2796683

1421225

1328816

323709

 

-277067

3800

-280867

-9752022

24594259

1201671

2011

2796683

1328846

1328816

311497

 

-172475

3800

-176275

-9928297

23617844

1377826

2012

2796683

1242471

1328816

299130

 

-73734

3800

-77534

-10005831

22629062

1553981

2013

2796683

1161710

1328816

275228

 

30929

3800

27129

-9978702

21616378

1730136

2014

2796683

1086199

1328816

262912

 

118757

3800

114957

-9863745

20591377

1906291

2015

2796683

1015596

1328816

239237

 

213034

3800

209234

-9654511

19542702

2082446

2016

2796683

949582

1328816

227053

 

291232

3800

287432

-9367079

18481842

2258601

2017

2796683

887859

1328816

214728

 

365280

146112

219168

-9147911

17408658

2292444

2018

2796683

830149

1328816

202259

 

435460

174184

261276

-8886635

16323005

2298216

2019

2796683

776189

1328816

189646

 

502033

200813

301220

-8585415

15224738

2277358

2020

2796683

725737

1328816

176886

 

565245

226098

339147

-8246268

14113712

2231215

2021

2796683

678564

1328816

163978

 

625326

250130

375196

-7871073

12989777

2161039

2022

2796683

634457

1328816

150919

 

682491

272996

409495

-7461578

11852784

2067998

2023

2796683

593217

1328816

137709

 

736941

294776

442164

-7019414

10702581

1953176

表8:ゆいレール収支、資金繰り推移シミュレート(単位:人、1000円、青太字:黒字、赤太字:債務超過、赤字:累積赤字、斜字:法人税率40%、太字:現金減少)

 さてこのシミュレーションから2023年までの流れを分析すると

     開業費償却費、減価償却費の減少でコストが自動的に削減され2013年度に黒字転換する

     黒字転換から4年経った2017年度から法人税の本格的な課税が始まり資金収支が悪化し、2019年度からは資金収支がマイナスになる

と言う2つの事象が浮かび上がってきます。そして2023年度の状況を分析すると

・損益はピークに比べて減少こそし、債務超過から脱却している物の累積赤字が債務超過すれすれの70億円と言う状況

     資金収支はこれも減少しているものの100億円以上の長期借入金が残っている

     現金は20億円を割り込んでいて残額は減少傾向にあり現在の借入金返済で手一杯の状況にある

これらを合わせて考えると少なくとも債務超過を脱却している分北九州モノレールより状況は良いものの現在の借入金に加え新たな設備更新負担にはこのままでは耐えられない状況にあるとみられます。更に北九州モノレールのように乗客減少、あるいは金利上昇と言う状況が加われば状況は北九州モノレールに限りなく近づくともいえます。

ゆいレールの今後は北九州モノレールよりはマシとは言えこのままでは大規模設備投資に耐えられない状況にある

 

4、破綻を回避するには〜誘客策と増収策〜

さて相当厳しい状況にあるゆいレール、さて破綻を避けるためには必要な事は何でしょうか?個人的には以下の2点と考えます。

     1つは行政を中心としたバックアップ体制を早いうちに作っておく事

     もう1つは収入を増加させる事

それではこの両者について少し考えていきましょう。

 

ぁ、んで、画像はだいぶ久しぶりに乗って、あんまり地元の人は使う機会がないであろうゆいレール+.(o´∀`o)゜+.゜

売り切れごめん!!!! @2007/1/23より

 

 上の文章は地元沖縄の大学生のblogから引用した物です。需要予測が満たされ利用者が多いといわれているゆいレールですが地元沖縄の人はどれだけ使っているのかと言う疑問が浮かんできます。

 

項目

運賃収入

同割合

利用者数

同割合

客単価

1日辺り利用者数

全体

2313564

100%

13118

100%

176.4

35940

普通券

1480681

64.0%

6953

53.0%

213.0

19048

回数券

402560

17.4%

2217

16.9%

181.6

6074

フリー切符

208221

9.0%

2007

15.3%

103.7

5499

通勤定期

145755

6.3%

1089

8.3%

133.9

2983

通学定期

76348

3.3%

853

6.5%

89.5

2336

表9:ゆいレールの利用者割合(単位:1000人、1000円、客単価、1日当たり利用者数はそれぞれ人、円)

 上の表は決算資料から作成したものです。みると

     定期客の割合が利用者の中で15%以下と非常に少ない

     また回数券利用もほぼ15%と日常的な利用者の割合は全体の1/3を下回る水準にある

     フリー切符での利用者は定期客を上回る15%強で観光での利用の多さが見受けられる

こう言った状況を鑑みるとゆいレールが通勤・通学など地元の人でなく外部からの観光客を中心とした利用者で成り立っている路線だと言う事が分かります。

現状施策

今後の展開

フリー切符のタイアップ(各種観光施設・商店街等)

タイアップ充実

バス乗り継ぎ案内充実

バス路線再編、高速バス乗り継ぎ

新都心循環バス

コミバス新路線

高架下P&R

ショッピングセンターP&R

 

ICカード導入と他交通機関との共用、乗り継ぎ割り引き

10:現在の誘客策と今後の展開(アクションプランより)

そう言った意味では積極的な定期客を中心とした地元客の誘致が望まれます。現在表にもありますようにアクションプランでICカードの導入を含めた積極的な展開が計画されていますが、普通の路線の場合で言えば減収を避けるべく値下げは難しい面も多いのですがゆいレールの場合は減収覚悟で定期及び回数券、そしてカード等での割引拡大と言う形での値下げを行う必要もあるのではないでしょうか?

 

 

埼玉高速

東葉高速

北総鉄道

ゆいレール

運輸外収入

1674

679

1617

105

運輸収入

5228

13452

11440

2314

割合

32.0%

5.0%

14.1%

4.5%

輸送人員

65

119

88

37

輸送人員当り

71

16

50

8

10:ゆいレールと他の3セク鉄道との運輸外収入比較(単位:100万円、千人/日、円/人)

さて減収覚悟で地元客を誘致するべきと言う事でそれをフォローし増収させる為に必要な事を見て行きましょう。上の表は営業収益における運賃以外の収入の状況をゆいレールと首都圏の第3セクター鉄道で比較した物です。これをみるとゆいレールでは運賃以外の収入の割合が相当に低い事が分かります。実際運賃以外の収入の割合が高い埼玉高速鉄道と比べると利用者あたりで10倍近い大差がついているのが分かります。

これはゆいレールは埼玉高速に比べて条件的に劣っているからでしょうか?それは多分違うと思います。

埼玉高速

ゆいレール

ゆいレール今後予定

特選品販売

広告

グッズ販売

旅行・イベント業

カード

 

グッズ販売

 

 

広告

 

 

撮影・サンプリング

 

 

遊休スペースへの店舗誘致

 

 

HP広告

 

 

カード

 

 

11:埼玉高速、ゆいレール増収策比較(斜線部:廃止部門)

上の表はゆいレールと埼玉高速の増収の為の策を比較した物です。旅行業に関してはさすがに旅行業出身の杉野前社長と言う事もあり多くは求められないですが基本的にはゆいレールにやるのは不可能と言う施策はそれほど無い様に思います。特にゆいレールは日常的な輸送よりも観光輸送を主力としている面があるので埼玉高速よりも優位に運べる面も多いのではと考えます。

そう言った意味で今後こう言った施策の開拓の余地は十分にあると思います。

 

 

金額

増加額

運輸雑収現状

104894

0

同東葉高速ベース

210905

106011

同北総鉄道ベース

679189

574295

同埼玉高速ベース

951930

847036

11:ゆいレール運輸雑収増収試算(単位:1000円)

 

現在収入

2割引時減収額

通勤定期

145755

29151

通学定期

76348

15270

回数券

402560

80512

合計

624662

124932

12:ゆいレール定期、回数券割引拡大負担試算(単位:1000円)

上の2つの表はそれぞれ運輸雑収増収による増収額、定期券・回数券の割引拡大による負担増加の試算です。上の表では顧客1人当たりの雑収入額をベースに試算、下の表では乗客増加を無視した純粋な負担額のみを試算しました。

この2つの試算を見る限り、定期券・回数券を2割引しても雑収入の増加で十分に補えトータルでの増収も狙えることが分かります。

ゆいレールの破綻回避の為には定期・回数券の値下げも含めた思い切った地元利用誘致による増客と運輸雑収増加による増収が不可欠と考えられる

 

6、まとめ

6-1、満たしても経営を保障しない需要予測〜予測の変化〜

ここまでみてきたゆいレールの決算レポート、その中でまず感じたのは「需要予測の持つ意味の変化」でした。かつての3セク鉄道の経営問題と言うと「ずさんな需要予測が外れて債務超過等大きな赤字を生み出しその解消に四苦八苦する」といった物でした。今回取り上げたゆいレールに関しては確かにこれまで需要予測の数字を概ね達成してきましたし、今後もその数字を大きく下回る状況と言うのは考えづらいです。

しかし決算書、そして大口株主である沖縄県の資料を見る限りで言えば「需要予測を満たしたから経営も順調」と言う状況からは程遠く、需要予測通り行っても債務超過、そして債務返済や設備更新の資金繰りに四苦八苦する様子が見て取れます。

かつての需要予測と言うのは北総鉄道や北九州モノレールがその数字を満たして無くても黒字化を達成した事からもわかるように、満たせるかどうかは別として、満たせば経営的な安全圏に入れる物ではなかったかと思います。

しかし今の需要予測の数字は当るようにはなったとは言え、満たしても経営的な安全圏を保障する物では無くなったのではないでしょうか?

そして単年度の黒字も北九州モノレールの産業再生法申請の事実から分かるように絶対的なものではなく、一歩間違えれば新たなる危機の始まりとすら言える状況です。

そう言った意味でこれからの第3セクター鉄道の経営・運営では需要予測や単年度の収支と言う見た目ではなく実際どういった状況なのかと言うきちんとした見極めが必要になってきたのではないでしょうか?

これからの3セク鉄道では需要予測や単年度の収支の状況は指標として完璧でなくこれらの見た目に流されない見極めが必要である

 

6-2、モノレールは沖縄に向いていたのだろうか?

さて需要予測に続き頭に残った事は「沖縄と言う場所にモノレールと言う交通機関は向いていたのだろうか?」と言う点です。ある意味今更と言う問題ではありますが・・・。

実際モノレールの特徴を考えると以下のことが浮かびます。

     完全立体化を実現している為、踏切事故など外部とのトラブルに巻き込まれる確率が非常に低い

     カーブや勾配に強いため導入区間への制限が少なく道路上などに施設しやすい

     完全に独立系の交通機関のためワンマン運転など少人数での運営がやりやすい

     しかしその為建設費が高くつき、設備更新も大規模になりやすい

・そして高速性におとり通常鉄道との直通も出来ない

これまでも導入例があることを鑑みても確かにメリットはあると思います。しかしその為の負担額は相当な物です。実際ゆいレールの経営問題の大半はこの建設費の負担による物であり、更に負担の多くは実はゆいレールでなく沖縄県などの行政による物です。

モノレールでは設備の多くを道路施設と言う解釈で道路予算による負担を行っておりその負担額は県の資料によると実に700億円となっています。実際ゆいレールの負担は大きいですが実際にかかった費用の1/3しか負担しないであの状況なのです。

実際この路線に関わる金銭の大半が設備投資であり、その為に少人数運営が可能と言う事は雇用も抑制されているわけです。

この路線が施設された沖縄県は出生率が日本一高い為、高齢化が進む日本の中では最も若い県であり、また失業率が高い為若い世代の求職者が非常に多い地域ではないかと思います。そう言った地域であれば省力化のためシステム化が進んだ高価な交通機関よりもシステム的にはやや遅れていても設備費用が安く人力でフォローする形の交通機関でも良かったのではないかと思います。また那覇以外にも延長を考えるとスピードの出せる在来線との親和性の高い交通システムが妥当だった様に思います。死んだ子の年を数えても仕方ありませんがやはり決算をじっくり分析しているとそう言った気持ちを抱かずに入られませんでした。

人口構成が若く失業率の高い沖縄ではモノレールの様な高価で完璧な交通機関よりも不完全でも安価で人間のフォローが必要な交通機関のほうが向いていたのではないのだろうか?

 

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参考

ゆいレール

沖縄県都市計画モノレール課

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