1、概要

・90年代、関東・関西など大都市圏でニュータウン開発や副都心アクセスの用途に多くの鉄道が第3セクター(ここでは自治体などの公共主体と民間の共同出資の株式会社と定義しておく)によって整備・運営されてきた。しかしその中の多くは累積赤字や高い運賃による乗客の伸び悩みに悩んでいる。この論文では主に千葉県の第3セクター鉄道である北総開発鉄道を中心にその実態を分析、そして改善案を考えて行く。そしてこの第1章では大都市圏第3セクター鉄道、そして北総開発鉄道・千葉NTの現状を概論としておおまかに見て行きます。

‐1、大都市第3セクター鉄道の経営状態

 

累積黒字

累積赤字(債務超過ではない)

債務超過

合計

当期黒字

2

1

0

   3

営業黒字かつ当期赤字

0

2

3

5

営業赤字かつ当期赤字

0

4

5

9

合計

2

7

8

17

表1:第3セクター鉄道の経営状態(96年度)

 上の表は96年度の関東・関西・東海の大都市圏、そして政令指定都市の第3セクター鉄道(旧国鉄線転換路線は除く)の主な17社の経営状態を示した物である。これを見る当期黒字を出している優良企業は僅か3社、そして営業黒字を含めても半分に満たない8社で営業黒字すら出せない会社が半分以上を占める。そして累積損益でも黒字は僅か2社、更に債務超過が全体の半分近い8社という状態であることが分かる。債務超過の会社と言うことは一般では倒産寸前と言っても良く、実際千葉・市原ニュータウンのアクセス路線だった千葉急行電鉄は98年に経営破綻してしまった。そこまで行かなくても

公共開発主体NTなどの都市開発をして人口増加人口の伸び悩み

鉄道会社顧客確保等の思惑で出資→子会社への債務保障などにより格付などの信用問題

第3セクター鉄道NT住民の輸送による安定した経営→乗客伸び悩みによる巨額の赤字・債務負担

と3者とも思惑とは裏腹の問題に苦しんでいる所は多いといっても良いのではないだろうか。

1−2、北総開発鉄道について

 ここでは大都市第三セクター鉄道の経営問題をじっくり見るために北総開発鉄道と言う千葉の第三セクター鉄道を取り上げる。北総開発鉄道は東京都の京成高砂駅と千葉県の印旛日本医大間32.3kmを結ぶ第三セクター鉄道で京成高砂〜小室間19.8kmは自ら線路を所有して経営する第一種事業者、小室〜印旛日本医大は都市基盤整備公団が設備を所有して、それを借りうけて運営する第2種事業者で、印西市・船橋市・白井市・印旛郡印旛村・本埜村の3市2村にまたがる千葉ニュータウン(以下NT)と東京都心を京成電鉄・都営地下鉄浅草線に直通して結ぶ路線である。

1−2−1、北総線が作られた目的

1−2−1−1、千葉県第3の幹線ルート

・千葉県の既存幹線ルートである京葉(〜成田・銚子、外房、内房地区)・常磐ルートの混雑・渋滞等のボトルネック

・京葉ルートから分岐する為に遠回りとなりまた京葉ルートの混雑の影響を受けてしまう成田空港アクセス

都心〜成田地区と言う第3の幹線ルートの確立が必要

・鉄道:北総開発鉄道、県営北千葉線

・道路:北千葉道路

・中核都市:千葉NT

と言う3点セットによる第3の幹線ルート(仮に北総ルートとしておく)の確立とその沿線地域の開発が計画された。

1−2−1−2、千葉NTアクセス

・首都圏における住宅・宅地需要に対応した、良好で計画的な住宅地の供給。

・東京〜成田間の新たなる幹線ルート(成田空港高速鉄道、北千葉道路)となるであろう千葉県北総地域の中核都市の形成。

と言う目的で開発が行われている千葉NT地域への都心からのアクセス輸送、また長期的には成田市・成田空港への延伸(成田空港高速鉄道)も視野に入れている。

 また千葉NTの開発が東京〜成田の新たなる幹線ルートの用地確保の側面もあると言われている。

1−2−2、北総線の歴史

1967年 千葉NT事業用地買収開始

  69年 千葉NT新住宅市街地開発事業の事業認可

  72年 北総開発鉄道設立

  73年 第1期区間(北初富〜小室間7.9km)工事施工認可

  79年 第1期区間営業開始(第2期区間営業開始まで新京成線北初富〜松戸間直通)

      千葉NT、第1期区間各駅勢圏入居開始

  82年 第2期区間(京成高砂〜新鎌ヶ谷11.7km)工事施工認可

  84年 住宅・都市整備公団(現都市基盤整備公団以下同公団はこの名前で記す)鉄道小室〜千葉NT中央間4.0km開業

      千葉NT、千葉NT中央駅勢圏地区入居開始

  85年 運賃9.4%値上げ

  87年 運賃4.2%値上げ

  88年 都市基盤整備公団鉄道線について都市基盤整備公団より設備を貸借し北総開発鉄道が第2種鉄道会社として運営をはじめる。

  89年 7.4%値上げ

91年 第2期区間営業開始(京成線・都営地下鉄線と直通運転)

    運賃6.8%値上げ

92年 新京成線新鎌ヶ谷駅開業(新鎌ヶ谷〜北初富間新京成線連絡線営業廃止)

93年 朝ラッシュ時に新鎌ヶ谷〜矢切間通過の急行運転開始

94年 千葉NT,印西牧の原駅勢圏入居開始

95年 都市基盤整備公団線千葉NT中央〜印西牧の原間開業(第2種鉄道として運営)

    運賃11.0%値上げ

98年 JR武蔵野線東松戸駅開業

    運賃10.1%値上げ

99年 東武野田線新鎌ヶ谷駅開業

2000年 都市基盤整備鉄道線印西牧の原〜印旛日本医大駅間開業(第2種鉄道として運営)

1−3、北総開発鉄道の現状

1−3−1、利払いが生み出す赤字体質

 

北総

営業係数

関東大手平均

関東大手最良

営業収入

11586850

100

100

       100

償却前営業費用

4989167

43.1

60.2

54.8

償却前営業利益

6597683

 

 

 

減価償却費

2491444

21.5

18.7

16.9

営業費用

7480611

64.6

78.9

71.7

営業利益

4106239

 

 

 

営業外収支

-5348505

-46.2

 

 

経常損益

-1242266

 

 

 

表2:北総線収支モデル(収入は単位千円,係数は営業収入を100とする北総は99年度、関東大手は98年度)

 上の表4は北総開発鉄道(以下北総)の収支を簡略化して関東大手私鉄8社の物と比較した物である。営業収支ベースで見る限り、関東ではダントツの収益性を誇る優良企業に見えるが営業外損失があまりにも大きい為大きな赤字となっている。実際いわゆる営業係数と言われる(営業費用−減価償却費−間接費)/営業収入と言う数字*で見れば40を割ってもおかしくなく、関東大手民鉄各社と比べてもずば抜けた収益性を持つ超優良路線である。それでも決して黒字になってこなかったのは結局営業外収支の赤字、すなわち借入金の利払いの為である。

*:「鉄道はクルマに勝てるか」川島令三著中央書院参照

資産の部

 

負債及び資本の部

科目

金額

科目

金額

流動資産

13513

流動負債

9821

現金・預金

13125

短期借入金

1182

その他流動資産

388

未払金

7180

 

 

その他

1459

固定資産

110932

固定負債

134451

鉄道事業固定資産

110270

長期借入金

   25082

その他固定資産

662

長期未払金

108751

 

 

その他固定負債

618

繰延資産

13227

資本金

24900

新株発行費

13227

欠損金

44714

 

 

資本の部合計

-19814

資産の部合計

124458

負債及び資本の部合計

124458

表3:北総開発鉄道99年度貸借対照表(単位百万円)

 結局その利払いが積み上がって実に99年度で447億円と言う莫大な累積損失となっているのである。

1−3−2、高すぎる運賃と千葉NTの停滞

路線

区間

距離

運賃

路線

区間

距離

運賃

新京成

松戸〜鎌ヶ谷大仏

15.4

210

横浜市

湘南台〜センター南

36.4

470

東西

日本橋〜妙典

15.3

230

京成

上野〜八千代台

36.6

520

JR

東京〜市川

15.4

290

JR

東京〜稲毛

35.9

620

京成

上野〜江戸川

15.7

310

都・京成

日本橋〜八千代台

36.1

680

横浜市

横浜〜中川

16.4

310

営団・東葉

日本橋〜勝田台

35.5

880

東葉

西船橋〜勝田台

16.2

610

京成・北総

上野〜千葉NT中央

36.5

1010

北総

高砂〜西白井

15.8

630

都・京成・北総

日本橋〜千葉NT中央

36.0

1150

表4:各路線の運賃(単位:km、円)参照:MATT2000年8月号

 上の表を見ると分かるように北総線の運賃は他線に比べて2〜3倍と言う高運賃である。そしてちなみに千葉NT中央〜日本橋の通勤定期券は一ヵ月で45080円と言う高額になってしまう。そう言った高運賃の影響は千葉NTの開発にも及んでいる。

年(3月末)

NT人口(人)

増加率(%)

増加人数(人)

備考

91

46780

10

4253

 

92

52831

12.9

6051

91値上げ北総線高砂〜新鎌ヶ谷開業都心乗りいれ

93

56226

6.4

3395

 

94

59910

6.6

3684

 

95

65629

9.5

5719

 

96

69454

5.8

3825

95/2値上げ、95/4北総印西牧の原延長

97

72138

3.9

2684

 

98

74639

3.5

2501

 

99

76154

2.0

1515

98/7値上げ98/3JR東松戸駅開業乗換駅化

2000

77556

1.8

1402

 

計画人口

194000

 

 

2004年3月完了予定

表5:千葉NTの人口の推移と北総線値上げ

 95・98年の北総開発鉄道の値上げによって千葉NTの人口増加率はそれぞれ9.5%→5.8%(94年度・95年度)、3.5%→2.0%(97年度・98年度)とほぼ半減している。95年の値上げの時には印西牧の原駅への延長、98年の値上げの時にはJR東松戸駅開業でネットワークの充実が図られたと言う事情があっても、である。

1−3−3、積極策に走れない北総線

区間

距離

所要*1

速度*2

NT速達

本線速達

本数/h

和泉中央〜難波

27.7

35

47.5

×

5

多摩センター〜新宿

29.2

26

67.4

9

NT中央〜日本橋

36

52

41.5

×

×

3

表6:主なNT路線の現状(昼間時、*1:昼間12時台発最速列車、*2:評定速度(停車時間込みの平均速度)参照:YAHOO路線、)

 また赤字の影響はダイヤにも良く表れていて、同じ様なNTを走る路線と比較すると良く分かる。上の表は主な都心から25km以上離れたNTの昼間時における都心・ターミナル方面への鉄道アクセスの状態を示した物である。所要時間及び速度を見ていくと通過運転する列車が無く、かつ途中で通過運転する列車に乗換える事も出来ない為、北総線は他線に比べてNT〜都心間の距離があるにも関らず遅く、かつ本数も半分あるいはそれ以下の水準である。

 

上野方面

浅草線方面

 

常磐快速

常磐緩行

 

東西線快速

 

総武快速

上野

0:00

 

上野

0:00

 

 

 

 

 

日本橋

 

0:00

大手町

 

0:00

日本橋

0:00

東京

0:00

東松戸

0:40

0:35

新松戸

0:37

0:36

西船橋

0:22

西船橋

0:31

新鎌ヶ谷

0:46

0:41

0:31

0:46

北習志野

0:33

船橋

0:25

千葉NT中央

0:58

0:53

木下

1:05*

1:20*

緑ヶ丘

0:37

 

 

 

20分毎

20分毎

 

7.5分毎

12分毎

*:成田線、30分毎

15分毎

 

8.5分毎

表7:競合各線との所要時間比較(赤字:北総線優位、青字:北総線不利*:快速列車)

 その為環状各線(武蔵野・東武野田・新京成)やバス路線からの乗換客を奪い合うはずの各線に比べて競争力が無く、所要時間に関してはほぼ全敗、フリークエンシーでも北総線が20分毎に対し競合各線はおおむね15分以下毎という事でこれも勝負にならない。

1−3−4、千葉の鉄道の現状と北総線

路線

最混雑時輸送量

割合(%)

複線当

集中指数

総武線

147210

31.0

73605

1.24

常磐線

153470

32.3

76735

1.29

京葉線

45140

9.5

45140

0.76

JR合計

345820

72.9

69164

1.17

営団東西線

76755

16.2

76755

1.29

京成本線*1

19752

4.2

19752

0.33

押上線

32104

6.8

32104

0.54

京成合計

51856

10.9

25928

0.44

全合計

474431

100

59304

1

北総線(参考)

11950

2.5

11950

0.20

表8:99年度各線最混雑時輸送量(千葉県)

路線

輸送量

割合(%)

複線当

指数

路線

輸送量

割合(%)

複線当

指数

JR*1

224268

46.7

74756

1.25

JR

188870

43.2

62957

1.01

東武

132403

27.6

44134

0.74

東急

133566

30.5

66783

1.07

西武

62799

13.1

62799

1.05

小田急

73315

16.8

73315

1.17

営団

60460

12.6

60460

1.01

京急*1

41600

9.51

41600

0.67

埼玉合計

479930

100

59991

1

神奈川合計

437351

100

62479

1

表9:99年度各線最混雑時輸送量(埼玉、神奈川県)

8,9:数字で見る鉄道2000参照北総線に関しては千葉県交通計画課

集中指数:その会社の複線当りの輸送量/その圏の複線当りの輸送量の平均、*1:京成、京急、JR埼玉の東北本線は最混雑区間が東京都内で無い為、最混雑区間の輸送量/最混雑区間の輸送力*該当区間の輸送力*0.9で求めた。

 そしてその結果北総線の通勤路線として果す役割は小さくなってしまう。上の表は最混雑時間帯1時間あたりの千葉地区の各路線の輸送量である。千葉地区の通勤輸送を考えた時、総武、常磐,営団東西線(以下東西線)への集中が見て取れる。特にJRはこの地区の通勤輸送で埼玉、神奈川が4割台なのに比べて、7割を担い、また東西線は複線当りで見て平均より三割多い。北総線が乗り入れている京成線はそのシェアのわずか1割、さらに複線あたりで見ると、わずか平均の4割の稼働率でしかない。北総線単独で見ると稼働率はわずか2割、シェアに至っては2.5%と言う体たらくである。これは北総線が各路線の混雑緩和にほとんど役立ってないことをあらわしている。

順位

駅名

乗換え路線()内は乗り入れ路線

人数

1

松戸

常磐線

117210

2

新津田沼

総武線

78156

3

北習志野

東葉高速線(東西線)

41922

4

八柱

武蔵野線(京葉線)

39560

5

京成津田沼

京成線

37362

11

新鎌ヶ谷

北総線(京成線)

17410

表10:99年度新京成線乗降客ランキング(参照千葉県統計年鑑)

ここで面白いデータがある、津田沼と松戸を結ぶ新京成線の乗降客数のランキングなのだが,上位5位までがこれらの主要各線,あるいは直通先の路線との乗換駅である。ランキングそのものが乗換え客のものではないので、必ずしもこれが千葉の各路線の序列そのものでもないが興味深いデータである。その中で北総は主要各線との乗換駅に大差を付けられている。新京成線沿線各乗換駅の競合相手に比べてダイヤに魅力が無く、更に高い運賃の為競争力が無く低迷を続けている北総開発鉄道の現状を示している様に私には感じられてならない。

 

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