2、北総線値上げがもたらした物

 北総・公団線で最も大きな問題は運賃の高さにあると言える。

路線

区間

距離

運賃

路線

区間

距離

運賃

新京成

松戸〜鎌ヶ谷大仏

15.4

210

横浜市

湘南台〜センター南

36.4

470

東西

日本橋〜妙典

15.3

230

京成

上野〜八千代台

36.6

520

JR

東京〜市川

15.4

290

JR

東京〜稲毛

35.9

620

京成

上野〜江戸川

15.7

310

都・京成

日本橋〜八千代台

36.1

680

横浜市

横浜〜中川

16.4

310

営団・東葉

日本橋〜勝田台

35.5

880

東葉

西船橋〜勝田台

16.2

610

京成・北総

上野〜千葉NT中央

36.5

1010

北総

高砂〜西白井

15.8

630

都・京成・北総

日本橋〜千葉NT中央

36.0

1150

表1:各路線の運賃(単位:km、円)参照:MATT2000年8月号

上の表を見ると他線の2〜3倍と言う高い運賃で、実際に沿線の千葉NTにおいて「北総・公団鉄道運賃値下げを実現する会」が行った署名活動では人口77556人(2000年3月末現在)のNTにおいて63912人もの署名が集まった事からもその問題の深刻さが分かる。

 ここでは特にバブル崩壊以降に行われた、2回(95・98年)の運賃値上げについてその影響を考えて見る。実際シミュレートそのものはその筋の専門家でなく、NTの人口増加率、北総線の乗客増加率のトレンドをベースとしたもので制度としてはそれほど保証(関東・関西の郊外地区の人口増加率で検証を行ってはいますが)されたものではないが、1つの目安には出きると思います。

2−1、千葉NTの人口増加における影響

 まずは北総開発鉄道の作られた大きな目的でもあり、最大の需要拠点である千葉NTの人口増加に関する影響を見ていこう。

年度

79

80

81

82

83

84

85

増加率

126.0

58.4

17.1

4.1

5.7

12.0

5.6

動向

北総線開業

 

 

 

 

千葉NT中央開業

9.4%値上

年度

86

87

88

89

90

91

92

増加率

5.6

14.0

13.4

11.8

10.0

12.9

6.4

動向

 

4.2%値上

 

7.4%値上

 

6.8%値上

都心直通開始

 

年度

93

94

95

96

97

98

 

増加率

6.6

9.5

5.8

3.9

3.5

2.0

 

動向

急行運転開始

 

11.0%値上

印西牧の原開業

 

 

10.1%値上

武蔵野線東松戸開業

 

表2:北総線の動向と千葉NT人口増加率(増加率:%、青字は増加率倍増以上、赤字は増加率の1/3以下への減少、動向:青字はNT開発推進要因、赤字は開発抑制要因)

上の表を整理すると人口増加率が激減している年は人口増加率が1回目の極小に至った82年度以降、85.92.95.98年の4回ありバブル崩壊の影響であろう92年度を除くと全て運賃値上が行われた年である。

 また運賃値上が行われた85・87・89・91・95・98の各年度を見てみると人口増加率は87・91年度を除いて減少しており、91年度に関しては北総2期線開業という千葉NT開発において最大の転換点であり、実質バブル最盛期と言っても良い87年度を除けばほぼ北総線の値上が原因で千葉NTの人口増加率は抑制されているといえるのではないだろうか。

 またここで取り上げる95・98年度値上時には印西牧の原延伸、武蔵野線東松戸駅開業によるネットワークの充実など開発を推進する要因と同時であったのにもかかわらず人口増加の激減は防げていない。これに関しては下において見て行きます。

2−1−1、80年代(バブル崩壊前)、90年代の影響について

 上でも見た様に同じ運賃値上の影響にしても80年代(バブル崩壊まで)と90年代では影響が異っているようである。ここではこれから取り上げる95・98年の運賃値上がどの様な状況下で行われたかを見るため少し80年代と90年代の差を大手私鉄、消費者物価指数との比較の中で見てみる。

年度

大手値上率

北総値上率

大手運賃

北総運賃

消費者物価指数

80

 

 

100

100

100

84

13.5

 

113.5

100

111.9

85

 

9.4

113.5

109.4

114.6

87

 

4.2

113.5

114.0

115.6

88

10.4

 

125.3

114.0

117.6

89

3.0

7.4

129.1

122.4

121.2

91

13.8

6.8

146.9

130.7

128.4

92

 

 

146.9

130.7

129.9

表3:大手私鉄と北総との80年代(バブル崩壊まで)における運賃値上比較

年度

大手値上率

北総値上率

大手運賃

北総運賃

消費者物価指数

92

 

 

100

100

100

95

14.7

11.0

114.7

111.0

101.2

97

5.1

 

120.5

111.0

103.7

98

 

10.1

120.5

122.2

104.1

表4:大手私鉄と北総との90年代における運賃値上比較

*:参照: 公共料金の窓 総務省統計局統計センター消費者物価指数(CPI)

実際80年代と90年代とを比較すると以下の特徴が浮かび上がる。

・大手に関しては一貫して消費者物価指数より運賃の上昇志向が強く実質的にも値上の方向にある。これは86年に制定された特定都市鉄道整備促進特別措置法(いわゆる特特法)により当時(いまでも)深刻だった通勤電車の混雑緩和の為の複々線化などの投資の為に運賃値上(特特法では値上げした運賃分の収入において税制優遇が行われる)が行われたためである。

・一方北総に関しては80年代は消費者物価指数と同様、90年代においては大手私鉄と同様の運賃の推移となっている。

・実質的には80年代は高い水準にあったものは消費者物価と言う点では決して更なる上昇傾向にあった訳では無く返って大手との格差は縮まっていたのである。

90年代に入って大手並のペースで運賃値上が行われたため実質的には高い運賃がさらに高くなったといえる。

 上で見て来た北総線の運賃値上の影響が80年代と90年代で違う理由はここ出見て取れる。

2−1−2、値上げ無し時の人口増加

年度

ニュータウン人口

増加率

増加人数

備考

91

46780

10

4253

91/1値上げ

92

52831

12.9

6051

 

93

56226

6.4

3395

 

94

59910

6.6

3684

 

95

65629

9.5

5719

 

96

69454

5.8

3825

95/2値上げ

97

72138

3.9

2684

 

98

74639

3.5

2501

 

99

76154

2.0

1515

98/9値上げ

0

77556

1.8

1402

 

2004

83427

1.8

5871

 

表5:千葉NT人口推移(各年三月、2004年は予想、http://www.mars.dti.ne.jp/~higurasi/ http://www.pref.chiba.lg.jp/)

 1を見てみましょう。これを見る限り、95年及び98年の値上げはその影響の出た95年度・98年度の人口増加率が前年度の半分近くまで落ち込むと言う事からも分かるように大きな影響を千葉ニュータウンに与えているといえそうである。逆にもしこの2回の値上げが無かったらのケースを想定する事で北総線値上げの千葉NTへの影響をシミュレートして見ます。

95・98値上げが無かった場合

 

 

実際人口

想定人口

実際増加率(%)

想定増加率(%)

94

59910

59910

 

 

95

65629

65629

9.5

9.5

96

69454

73253

5.8

11.6

97

72138

80246

3.9

9.5

98

74639

87570

3.5

9.1

99

76154

95739

2.0

9.3

2000

77556

104477

1.8

9.1

2004

83427

148020

1.8

9.1

増加(2000対95)

11927

38848

18.2

59.2

表6:値上げ無し時の千葉ニュータウン人口増加モデル(増加率は値上げが無い年は前年度増加率*実際の増加率/実際の前年度増加率、値上げのある年は前年度増加率*実際の増加率/実際の次年度増加率)

 2では北総線印西牧の原開業前年度の人口伸び率9.5%を基に北総線印西牧の原延伸のあった95年度は実際の96年度に比べて95年度の人口増加率の高い部分を延伸効果と捉えその分を補正した。武蔵野線東松戸駅開業の98年度も同様である。その他の年は実際の人口増加率の前年度からの変化を想定前年度からの補正要因として補正した物である。

 これを見ると増加人口では3倍以上実際の人口でも1.3倍以上もの大差が付く。そして99年度の人口増加率を基準に千葉NTの事業完了の2004年3月の人口を予想すると、このままでは千葉NTの計画人口194000人に対して43%と半分に満たない充足率になってしまう。それに対し値上げ梨の想定では3/4以上と言う充足率で問題無いレベルと言えるのではないだろうか?

2−1−2、大都市圏人口増加率からの検証

 表2のデータはあくまで95・98年の値上げが無いと言う仮定だけから導き出した人口増加の仮説である、特に90年代後半人口の「都心回帰」の傾向が言われる中で実際千葉NTの様な郊外地域の人口推移はどうなっていたか、次に見て行きましょう。

 ここでは都心へ通勤可能な郊外地区として都心あるいは都心あるいはターミナルからの直行路線があり、またその路線のターミナルから50km以内に県庁所在都市がないと言う条件付けで取り上げる路線を決めそしてターミナルから40km以内の地区としました。

路線

中央線

常磐線

小田急線

西武新宿線

西武池袋線

東武東上線

東武伊勢崎線

合計

指数

ターミナル

新宿

上野

新宿

新宿

池袋

池袋

北千住

 

 

ピーク

25

13

16

16

16

19

17

122

100

20km

14

13

12

11

12

12

13

87

71

25km

14

13

12

7

11

12

13

82

67

30km

10

13

12

7

6

12

13

73

60

35km

9

8

10

6

6

4

5

48

39

40km

8

4

10

6

6

4

5

43

35

45km

2

4

10

6

2

4

3

31

25

50km

2

4

6

6

2

4

3

27

22

表7:ターミナルとの距離帯と昼間時の1時間当りの列車本数(基準はターミナル発12:00〜13:00、指数はピークを100とする)

路線

中央線

常磐線

小田急線

西武新宿線

西武池袋線

東武東上線

東武伊勢崎線

平均

指数

ターミナル

新宿

上野

新宿

新宿

池袋

池袋

北千住

 

 

最終

1:01

0:51

0:52

0:46

0:45

0:45

0:40

0:49

 

20km

0:41

0:34

0:38

0:44

0:44

0:44

0:39

0:41

8

25km

0:41

0:34

0:38

0:44

0:44

0:44

0:39

0:41

0

30km

0:41

0:34

0:38

0:44

0:08

0:44

23:52

0:29

12

35km

0:41

0:23

0:10

23:57

0:08

23:48

23:52

0:08

21

40km

0:41

23:41

23:50

23:57

0:08

23:48

23:52

24:00

8

45km

23:45

23:41

23:50

23:57

22:47

23:48

22:34

23:29

31

50km

23:45

23:41

23:35

23:57

22:47

23:48

22:34

23:27

2

表8:ターミナルとの距離帯と終電車発射時刻(基準はその距離にたどりつくのにターミナル発何分まで電車があるか、指数は前の距離帯から終電が何分繰り上がったか)*:表7,8参照MATT2001年10月号

 そしてターミナル、都心からの距離を40km以内としたのは上の表7,8を見るとわかる様に30〜35kmを境に昼間時であれば電車の本数が激減し、終電は繰り上がると言う事で都心〜ターミナルと言う点を加味して40km以内と言う距離帯としました。

 

東京95

東京00

大阪95

大阪00

 

東京95

東京00

大阪95

大阪00

都心

-2.4

2.0

-0.8

-0.1

都心

-2.4

2.0

-0.8

-0.1

15km

0.4

2.1

-0.2

-1.1

4000〜

2.5

2.9

0.7

-0.4

20km

0.2

2.6

2.4

0.3

4000

5.7

5.0

6.6

4.3

25km

3.8

3.5

7.8

6.4

2500

 

 

6.3

6.7

30km

4.5

4.0

5.9

4.3

1500

 

 

8.5

12.3

30km〜

3.5

3.6

5.6

5.0

都市圏全体

2.5

2.6

1.1

1.2

都市圏全体

2.5

2.6

1.1

1.2

10000〜

1.3

2.8

 

 

 

 

 

 

 

4000〜

2.8

3.0

 

 

表9: 母都市との距離・人口密度と人口増加(東京圏・大阪圏共に国勢調査を基にした5年間人口増加率、単位%太字は増加率を増大させた物)

 上の表はその条件にを基に関西圏・関西圏共に下記の条件を加え首都圏35市町村(23区は1つの都市と計算している)、関西圏21市町村の国勢調査人口から作ったものである。

・ただし自県の県庁所在都市(大阪市・東京23区を除く)への直通鉄道アクセス(JR地方交通線は除く)のある市町村は除く

・阪神大震災の影響のある兵庫県は除く(都市圏全体の統計は除く)

・面積100km2以上の自治体は除く(これは下の人口密度での検証の時に100km2以上の面積だと地区として広すぎる為100km2の目安は横須賀市)

・千葉NT地区の自治体(千葉県船橋・印西・白井市・本埜・印旛村)は除く

  また人口密度の区分けは以下の考え方に基づいてのものである。

・人口集中地域の定義が人口密度4000人/km2の為これより上を人口集中地域として定義し、その約6割の2500人/km2を次の区分けとしてそれより上を準人口集中地域、下を準郊外地域、そしてその6割の1500人/km2以下を郊外地域と言う区分けにした

  上の表を見ると傾向として以下の事が浮かぶ

・関東、関西とも都心部が人口減少から増加あるいは減少率の緩和と言う形で人口の都心回帰傾向が見て取れる。

・関東では都心に近ければ近いほど人口密度が高ければ高いほど人口増加率が95年度に比べて2000年度が高くなる傾向にある。

・関西では距離別で見ると都心部以外では2000年度、95年度の人口増加率を上回った地区は無い。

また関西では人口密度で見ると都心以外にも郊外地区の人口増加率が95年度に比べて2000年度は大きくなる傾向にある。逆に都心以外の人口集中地区では大きく人口増加率を落としている。これらの事から千葉NTの人口増加率を想定して行くのだが、ここでまず千葉NT地区の地域を定義して見よう。

都心からの距離:36.0km(日本橋〜千葉NT中央間)→関東地区30〜40km圏内

人口密度:818人/km2(印西・白井市・本埜・印旛村、面積159.21km2、人口130.226人2000年国勢調査)→関東地区人口密度1500人/km2以下(郊外地区:2500人/km2以下)

  という事になる。一方こう言った郊外地区の人口増加率を見ると

 

95(5年増加・%)

00(5年増加・%)

シェア拡大率(対日本全国)

シェア拡大率(対関西圏)

郊外20km〜

7.4

8.1

1.2

0.5

郊外30km〜

5.5

6.5

1.4

0.7

郊外地区合計

6.6

7.4

1.3

0.6

関西圏

1.1

1.2

 

 

日本

1.6

1.1

 

 

表10:郊外地区の人口増加率(郊外地区は人口密度2500人以下の準郊外地域を含む、シェア拡大率は所属する都市圏全体の人口増加率から導き出す人口増加率の期待値に対しどれだけ上回れたかを示す)

上の表を見ると郊外地区は全国及び所属する大都市圏(関東圏には郊外地区が無いため関西圏のみ)の人口増加率と人口増加伸び率を上回り、拡大している。どちらかと言うと千葉NTのある都心から30km〜の地域の人口増加率の伸びのほうが大きい。

 

95人口

95増加率(5年増加・%)

シェア拡大率

00増加期待率(5年増加・%)

00実際人口増加率(5年増加・%)

00期待人口

00実際人口

千葉NT

65629

54.2

1.4

55.6

18.2

102112

77556

千葉NT想定

65629

54.2

 

59.2

18.2

104477

77556

同補正*

65629

54.2

 

55.4

18.2

102188

77556

千葉NT自治体

119728

29.8

1.4

31.0

8.8

156807

130226

日本

 

1.6

 

1.1

 

 

 

表11:シェア拡大率を基にした千葉NT地区2000年人口期待値(*:補正は95年の印西牧の原延伸、98年の武蔵野線東松戸開業を補正する為に95・98年度の増加率をその前年度のものと置換えた)

 上の表はシェア拡大率を基に出した千葉NT及び千葉NT周辺自治体の2000年の人口期待値、及び運賃値上げなし想定時そしてその想定時の印西牧の原延伸、武蔵野線東松戸開業の高かを補正したものである。これを見ると実際の人口は期待値に比べて大きく乖離している事が分かる。そして想定補正時とシェア拡大率で出した人口・人口増加率のデータは人口で76人(0.07%)人口増加率で0.2%の差とほぼ一致している事がわかる。

2−2、鉄道輸送人員における影響

2−2−1、ニュータウン地区における影響

 続いて鉄道輸送人員についてみていきましょう。これまで見て来た千葉NT地区の人口は各年の3月末の人口、すなわち年度始めの人口といっても良い。そして鉄道の乗降人員は年間の平均である。その為その示す時期は自ずとずれる。これを補正するために(n年3月末の人口+(n+1)年3月末の人口)/2をn年度の補正人口として扱う事でまず年度ごとの人口の増減と乗降人員の増減を見ていこう。

 

NT人口

増加人数

NT年度補正人口

補正人口増加

NT地区乗降人員/日

同増加人数

増加係数*

95

65629

5719

67542

4772

51580

5340

1.12

96

69454

3825

70796

3254

54431

2851

0.88

97

72138

2684

73389

2593

57195

2764

1.07

98

74639

2501

75397

2008

60100

2905

1.45

99

76154

1515

76855

1458

59784

-316

-0.22

2000

77556

1402

 

 

 

 

 

増加係数平均*2

 

 

 

 

 

 

0.87

同分散*2

 

 

 

 

 

0.20

 

表12:NTの人口増加とNT地区乗降人員の相関関係(*:NT地区乗降人員増加人数NT補正人口増加人数、*2:92〜99年の物)

 これを見ると平均から分散以上に大きいか小さいかの物は98・99年度となる。武蔵野線東松戸駅開業の影響の出た98年度は1.45と大きく、運賃値上げの悪影響が強く出た99年度は−0.22と人口増加に関らず乗降人員は減っている。この2者は平均との差が標準偏差を上回っている。この2年間のうち99年に関しては値上げをした影響なのでそれを無視してシミュレートする事にする。

年度

NT年度補正人口

NT地区乗降人員

NT想定年度補正人口

NT地区想定乗降人員

増加係数

95

67542

51580

69441

51580

1.12

96

70796

54431

76750

57982

0.87

97

73389

57195

83908

65614

1.07

98

75397

60100

91655

76821

1.45

99

76855

59784

100108

84176

0.87*

増加

9313

8204

30667

32596

 

表13:NT地区乗降人員の想定(*:増加係数がマイナスの99年度は平均値の0.87を採用)

 これを見ると値上げが無ければ4年間でNTの人口では増加で3.3倍、実際の人口でも3割、乗降人員では4倍、実際の乗降人員でも4割もの大差がつくと言う結論となった。

2−2−2、各乗換駅に対する影響

続いて東松戸と新鎌ヶ谷の2つの乗換駅についてみていきましょう。

年度

新鎌ヶ谷・北初富・東松戸乗降人員/日

増加率(%)

91

14735

 

92

15018

1.9

93

16547

10.2

94

17770

7.4

95

18931

6.5

96

19704

4.1

97

20605

4.6

98

24636

19.6

99

25999

5.5

表14:乗換駅(東松戸・北初富・新鎌ヶ谷)の1日あたり乗降人員の推移

 97年、98年は東松戸にJR駅が出来た関係で伸び率が回復しているが、値上げが行われた95年度以降目立たないが乗客の増加ペースは停滞傾向に確実に向かっている。増加そのものは新京成新鎌ヶ谷駅開業の92年度、JR東松戸開業の98年度にピークが来ている。そしてここでも値上げの影響を補正して見る。

年度

補正乗降人員

実際乗降人員

94

17770

17770

95

19083

18931

96

20494

19704

97

21554

20605

98

26324

24636

99

28654

25999

増加

10884

8229

表15:乗換駅(新鎌ヶ谷・北初富・東松戸)、値上げ無し時1日あたり乗降人員の推移の想定

 この想定では、94年度の増加率を95年度の増加率で割った物を各年度の増加率にかけた補正増加率を使いました。千葉NTに比べて差は小さい物の増加人員で3割、実際の乗車人員で1割の差がついている。ただ98年に東松戸開業時に関しては98年度に値上げが行われ、更に新規開業時点で既に95年度の値上げ後だったため、更に大きな増加になっていた可能性がある。

2−2−3、2期線沿線(東松戸を除く)における影響

 続いて2期線沿線である大町〜新柴又(東松戸を除く)の乗降人員についてみてみましょう。

年度

乗降人員

増加率(%)

91

12781

 

92

16252

27.2

93

18426

13.4

94

19416

5.4

95

20139

3.7

96

21164

5.1

97

22007

4.0

98

24677

12.1

99

24723

0.2

表16:2期線沿線(除く東松戸)の1日あたり乗降人員の推移

 実際値上げの影響の出た95・99年度が1種の増加率の極小時期となりその後それ以前ほどではないが回復していると言う構図となっている。開業当初が最初かつ最大の成長ピークでその後98年度の武蔵野線東松戸開業が2度目のピークとなっている。しかし翌99年度は一気に増加率が12.1%→0.2%となっていて98年度の値上げの影響が大きかった事に驚くばかりである。

年度

想定乗降人員

実際乗降人員

94

19416

19416

95

20459

20139

96

21962

21164

97

23224

22007

98

27289

24677

99

28920

24723

増加

9504

5307

表17:2期線沿線(東松戸除く)、値上げ無し時1日あたり乗降人員の推移の想定

 この想定では、94年度の増加率を95年度の増加率で割った物を各年度の増加率にかけた補正増加率を使いました。ただしあまりにも値上げの影響の大きかった99年度に関しては前年度98年度の増加率を92年度・93年度の増加率の変化で補正して想定を出しました。増加で1.8倍、実際の乗降人員では約2割と少なからず差がついた。

2−2−4、高砂駅(=京成直通客)における影響

 続いて京成線との接続駅であり、京成・浅草線経由の都心ルートの利用度を表す高砂駅の乗降人員についてみてみましょう。

年度

乗降人員

増加率(%)

全体増加率

91

28415

 

 

92

36928

30.0

18.0

93

42248

14.4

11.5

94

46904

11.0

9.5

95

50210

7.0

8.1

96

52711

5.0

5.1

97

54157

2.7

4.0

98

55355

2.2

7.0

99

54448

-1.6

0.1

表18:京成高砂駅(含む京成・浅草線直通客)の1日あたり乗降人員の推移

 94年度までは北総線全体の乗降客増加率を上回り、積極的な北総線回りの都心ルートへの転移が進んだのが分かる。しかし値上げの行われた95年度を期に北総線前対の乗降客増加率を下回るようになり、98年度に至っては全体の増加率が前年度を上回ったのに対し高砂駅の増加率は前年度を下回ってしまっている。この事が意味するのは千葉NTからの乗客の京成〜都営地下鉄ルートからの逸走で、特に武蔵野線東松戸駅の開業のあった98年度においてはその傾向が一層顕著となっている。そこでその辺を補正してみる。

年度

想定乗降人員

実際乗降人員

94

46904

46904

95

51231

50210

96

56468

52711

97

62065

54157

98

73333

55355

99

79695

54448

増加

32791

7544

19:京成高砂駅(京成線直通含む)値上げ無し時1日あたり乗降人員の推移の想定

 この想定では単純に上で挙げた千葉NTおよび乗換駅・2期線沿線の乗降人員を合計して出した各年度の増加率を掛けるだけにした。というのは上の乗降人員の多くは京成高砂駅の乗降人員および京成線・都営地下鉄への直通客だからで、言うなれば上で挙げた乗車人員がどれだけこれらの路線に流入したからである。そして出た想定だが、増加人数で4.3倍、乗車人数で45%の大きな差が僅か5年でついてる。実際東松戸に関しては未知数な点も多いのでこれ以上の差が出ることもありうる。

2−2−5、全体における影響

 そして最後に上で挙げた4つを合計した北総線全体について見て見ましょう。ここでは全体の想定の合計から見てみます。

年度

想定乗降人員

実際乗降人員

94

130330

130330

95

142354

140860

96

156906

148010

97

172457

153964

98

203768

164768

99

221446

164954

増加

91116

34624

表20:全体値上げ無し時1日あたり乗降人員の推移の想定

1: 全体値上げ無し時1日あたり乗降人員の推移の想定

 ここでも増加人数ベースで2.6倍、全体人数ベースで35%もの大差がわずか5年間でついており唖然とするばかりである。

2−3、北総線の収支における影響

そして乗車人員に対する影響がわかったので続いてそれを基に収支についてみて見ましょう。

 

94

95

96

97

98

運賃収入

6885656

8204194

8757438

9128577

10055025

雑収

589476

795375

850426

915235

928756

営業収入

7475132

8999569

9607864

10043812

10983781

営業費用(償却費、使用料のぞく)

3179619

3500453

3401996

3689022

3603263

線路使用料

680506

979151

1079014

1246184

1407283

償却前営業費用

3860125

4479604

4481010

4935206

5010546

償却前営業利益

3615007

4519965

5126854

5108606

5973235

減価償却費

2721992

2670629

2572561

2506844

2476340

営業費用

6582117

7150233

7053571

7442050

7486886

営業利益

893015

1849336

2554293

2601762

3496895

営業外収支

-6132682

-6619224

-6264668

-6052566

-5931469

経常損益

-5239667

-4769888

-3710375

-3450804

-2434574

特別損益

4000000

736480

138875

149260

41106

税引前当期損益

-1239667

-4033408

-3571500

-3301544

-2393468

税金等

7470

7470

10987

7094

7060

当期損益

-1247137

-4040878

-3582487

-3308638

-2400528

経常cf

-2517675

-2099259

-1137814

-943960

41766

表21:北総開発鉄道収支状況(単位1千円)

 表12は94年度から99年度までの北総線の損益計算書を基に作った収支状況です。値上げを行った95年度と98年度はそれぞれ運賃収入で19.1%、10.1%と大幅な増加になっています。98年度の方が増加幅は小さいのですが、これは値上げが年度途中の7月に行われたのが大きいと思われます。

 そこで次に値上げを行わなかった時の収入について補正してみましょう。

年度

94

95

96

97

98

99

現状運賃収入

6885656

8204194

8757438

9128577

10055025

10601000

想定運賃収入

6885656

7520914

8289732

9111330

10765567

11699539

表22:値上げ無し時運賃収入想定(想定:運賃値上げ無し想定、乗降人員は人/1日、収入は千円/年)

図2: 値上げ無し時運賃収入想定

 確かに短期的には値上げの効果があるのがわかるが、結局乗客の伸び悩みで97年度にはほぼ追いつかれ、98年には値上げを行ったにも関らず追いぬかれている。実質値上げが効果を表したのは95、96の2年間だけで98年の値上げに至っては逆効果とすら言える。そして収支状況なのだが、都市基盤整備公団鉄道部への線路使用料は北総の運賃収入+千葉県から公団にでた補助金が北総、公団の負債額に応じて比例配分されると考えられるので、補助金を公団の特別利益と近似して考えると以下の表の様になります。

年度

94

95

96

97

98

99

現状運賃収入

6885656

8204194

8757438

9128577

10055025

10601000

現状補助金

477519

474138

473953

510326

670161

933000*

現状線路使用料

680506

979151

1079014

1246184

1407283

1580000

現状補正北総運賃収入

6205150

7225043

7678424

7882393

8647742

9021000

現状北総自己資本+負債

152834346

156688258

159786499

163001301

166267581

169171901

現状公団自己資本+負債

30424273

31129101

31998053

34312707

40096341

45250000

想定運賃収入

6885656

7520914

8289732

9111330

10765567

11699540

想定補助金

477519

474138

473953

510326

670161

933000

想定線路使用料

680506

850973

988213

1162870

1551792

1732877

想定補正北総運賃収入

6205150

6669941

7301519

7948459

9213775

9966662

想定北総自己資本+負債

152834346

156688258

159786499

163001301

166267581

169171901

想定公団自己資本+負債

30424273

31129101

31998053

34312707

40096341

45250000

想定時と現状とのcf誤差

0

555102

376905

-66066

-566033

-945662

現状現金・預金

9135338

2358460

4012988

1714447

5712317

13125180

想定時現金・預金

9135338

1803358

3080981

1403608

6344417

14636876

想定時安全回転資金

573805

626743

690811

759277

897131

974962

想定時回転資金余裕

8561533.3

1176615

2390170

644331

5447286

13661914

表23:値上げ無し時線路使用料想定(単位1千円、*:公団11年度下半期決算より推測)

 北総、公団それぞれの自己資本+負債はそれぞれの収入の変動(CF誤差)が貸借対象表上の現金、預金の合計を下回り、現金、預金残高からCF誤差をひいた想定時現金・預金が年間運賃収入を月毎に割った安全回転資金よりも多いので、値上げ無し想定時も現状の枠組み上の物と同一とした。そしてその線路使用料を基に出した想定収支は以下の表の様になります。

 

94

95

96

97

98

99

運賃収入

6885656

7520914

8289732

9111330

10765567

11699539

雑収

589476

795375

850426

915235

928756

928756

営業収入

7475132

8316289

9140158

10026565

11694323

12628295

営業費用(償却費、使用料のぞく)

3179619

3500453

3401996

3689022

3603263

3409167

線路使用料

680506

850973

988213

1162870

1551792

1732877

償却前営業費用

3860125

4351426

4390209

4851892

5155055

5142044

償却前営業利益

3615007

3964863

4749949

5174673

6539268

7486251

減価償却費

2721992

2670629

2572561

2506844

2476340

2491444

営業費用

6582117

7022055

6962770

7358736

7631395

7633488

営業利益

893015

1294234

2177388

2667829

4062928

4994807

営業外収支

-6132682

-6619224

-6264668

-6052566

-5931469

-5348505

経常損益

-5239667

-5324990

-4087280

-3384737

-1868541

-353698

特別損益

4000000

736480

138875

149260

41106

-24764

税引前当期損益

-1239667

-4588510

-3948405

-3235477

-1827435

-378462

税金等

7470

7470

10987

7094

7060

7060

当期損益

-1247137

-4595980

-3959392

-3242571

-1834495

-385522

経常cf

-2517675

-2654361

-1514719

-877893

607799

2137746

表24:値上げ無し時収支想定(単位1千円)

これだと比較しづらいので簡略化すると

 

94

95

96

97

98

99

現状営業収入

7475132

8999569

9607864

10043812

10983781

11586850

現状償却前営業利益

3615007

4519965

5126854

5108606

5973235

6597683

現状営業利益

893015

1849336

2554293

2601762

3496895

4106239

現状経常損益

-5239667

-4769888

-3710375

-3450804

-2434574

-1267029

現状経常cf

-2517675

-2099259

-1137814

-943960

41766

1224415

値上げ無し想定営業収入

7475132

8316289

9140158

10026565

11694323

12628295

値上げ無し想定償却前営業利益

3615007

3964863

4749949

5174673

6539268

7486251

値上げ無し想定営業利益

893015

1294234

2177388

2667829

4062928

4994807

値上げ無し想定経常損益

-5239667

-5324990

-4087280

-3384737

-1868541

-353698

値上げ無し想定経常cf

-2517675

-2654361

-1514719

-877893

607799

2137746

表25:現状、値上げ無し時想定収支比較(単位1千円)

3:現状、値上げ無し時想定cf比較(単位1千円

 確かに95、96年が苦しいが97年で一気に挽回し、98年に逆転しているという構図その物は変わらない。トータルで見るとやはり苦しい物の線路使用料の想定でも書いたようにやはり回転資金の余裕が得る事が出きるので問題は無い。どっちにしても金利支払いはしっかり行える状態である経常CFがプラスに転じるのは98年で変わらないし、現状と同じく2,000年度からの返済を目指す視点で考えても98年で返済原資と言える現金預金が想定時のほうが多い事を考えると、返って長期的に見ると有利で、95年度経常CFの改善が無いと言う点を除けば少なくともそれほど値上げをしなくても問題にはならなかったのです。

 

2−4、値上げで直通路線が失った物

年度

想定乗降人員

実際乗降人員

94

46904

46904

95

51231

50210

96

56468

52711

97

62065

54157

98

73333

55355

99

79695

54448

増加

32791

7544

表26:京成高砂駅(京成線直通含む)値上げ無し時1日あたり乗降人員の推移の想定

 上の表は京成高砂駅における北総の運賃値上げをしなかったケースと現状との比較である。これを見ると大きな差があるのが分かる。この影響は北総線だけでなく北総線電車が直通する京成線、都営浅草線にも影響する。ここではその影響について見て見よう。

2−4−1、京成における影響

区分

客数

収入(円)

定期(6ヶ月40770円)

25247*0.73*0.5*2=18430

751391100

定期外(1回180円)

25247*0.27*365=2488092

447856560

合計

25247

1199247660

表27:北総線運賃値上げにおける京成の影響

 上の表は99年度における北総線高砂駅の値上げ無し想定と現状との比較(乗降客数25247人)と99年度の北総線の定期乗客比率73%を基に代表的な区間である高砂〜押上間の6ヶ月通勤定期(40770円)普通乗車券(180円)を利用したとして出した北総線の運賃値上げによって京成線が失った収入を算定した物である。これを見ると実に12億円近い額になる。

 

値上げ無し時増収額

京成運賃収入

京成鉄軌道事業営業利益

金額

1199

48578

7567

係数

100

2.5

15.8

表28:北総線運賃値上げにおける京成の影響の京成収入との比較(金額:100万円、係数:値上げ無し増収額/金額*100、京成の金額は98年度)

 そしてその12億円を京成の収入・利益(鉄軌道事業営業利益)と比較すると運賃収入の2.5%、鉄軌道事業営業利益の実に15.8%にも達する。実際北総の値上げが無い時でもそれほど費用増加無しでこの増収は得られる物と考えられるので、実際値上げによってこれだけの収入を京成電鉄は失ったと言える。

2−4−2、都営浅草線における影響

 

北総線定期客

北総線普通客

96

11983

4210

99現状

12378

4578

99想定

18117

6701

5739

2123

表29:押上駅浅草線北総線流入客数(単位人)

 上の表は96年度の押上駅における定期客の流入状況と上での高砂駅の乗降客数を基に99年度現状の定期客流入状況と北総線の値上げが行われなかった想定での流入状況を推定した物である。これを見ると99年段階で5割近い大差がついている。これを基に押上〜日本橋と言う代表区間で京成と同様に失った収入を出すと以下の様になる。

区分

客数

収入(円)

定期(6ヶ月42990円)

5739*2=11478

493439220

定期外(1回210円)

2123*365*2=1549790

325455900

合計

7862

818895120

表30:北総線運賃値上げにおける東京都交通局の影響

 

値上げ無し時増収額

交通局収入

交通局営業赤字

金額

819

127200

35200

係数

100

0.6

2.3

表31:北総線運賃値上げにおける交通局の影響の交通局収入との比較(金額:100万円、係数:値上げ無し増収額/金額、交通局の金額は2001年度計画)

 京成に比べて規模が大きいため影響としては小さいがそれでも8億円以上の収入と言うのは巨額の赤字に陥っている交通局にとって喉から手が出るほど欲しい物であると推察できる。ここでもこの増収に対して交通局の負担はほとんど無いため小さいとは言え確実にこの増収は赤字削減に結びつくと推察できるのでなおさらである。

 

2−4−3、成田新高速鉄道への影響

 日経新聞によると北総線の終点である印旛日本医大と現在の成田空港アクセス鉄道である成田空港高速鉄道の土屋(駅未設置)を結び、北総線経由で都心・羽田空港〜成田空港を結ぶ成田空港新高速鉄道の建設が政府の都市再生本部の重点プロジェクトとして取り上げられ、政府は土地買収費用等を負担する事で自治体の負担を軽減し2010年の共用を目指すとの事である。

 当然北総線を経由する事とあるので北総線とは少なからぬつながりがあり、また北総線値上げの影響を直接ではないが受ける事となる。

 

ライナー(有料特急)

特急(料金不用速達列車)

京成(2001.5.29概算要求決定時京成常務インタビューより)

1本/40分

1本/40分

千葉県(企画部交通計画課「成田新高速鉄道事業化推進に関する調査」についてより)

3本/1時間

3本/1時間

表32:京成・千葉県の成田新高速鉄道の運行計画(参照: 京成常務インタビュー@ブルームバーグ千葉県企画部交通計画課

 上の表は政府の2002年度予算概算要求でこの成田新高速鉄道関連の予算が取り上げられた時期に行われた運営事業者ニなる予定の京成電鉄及び沿線自治体の千葉県のインタビュー、及び発表からこの鉄道の運行計画に関する概要を取り上げたものである。これを見ると運行本数では料金が必要なライナー、料金が不要な特急共に倍の開きがある事がわかる。

 

本八幡

船橋

津田沼

八千代台

勝田台

佐倉

成田

合計

平均

京成

33808

101904

48572

58646

54560

24138

37516

359144

51306

 

東松戸

新鎌ヶ谷

西白井

千葉NT中央

 

 

 

 

北総

9420

15894

12412

26450

 

 

 

64176

16044

表33:現状北総線と京成の乗降客数比較(99年度千葉県H.P参照)

 これは北総の乗客の少なさから考えれば京成常務のコメントも理解出来る訳で実際ほぼ千葉県の運行計画通りのダイヤ(ライナーの本数は半分であるものの)を組んでいる現状の京成の特急停車駅の乗降人員と北総の主要駅の乗降人員を比較した上の表を見ると北総の主要駅の乗降人員は現在の京成特急駅の乗降人員の平均で1/3、全体では2割以下であり、これではいくら運賃が高くて客単価が高く、そしてスピードアップによって成田空港アクセス客が増えても鉄道会社側としては本数を増やせない状態といえる。そして今後の乗客増加に関しても現状の千葉NTの成長率を考えてもそれほど期待は出来ないといえる。京成や東京都に比べて実際の金額ベースでの比較は出来ないものの北総開発鉄道ヶ行った90年代の運賃値上げは成田新高速鉄道の今後にも中間旅客の確保による供給の改善の為には少なからぬ影響を与えていると言える。

区間

運賃

所要時間

本数

乗降人員

上野〜成田空港(京成)

1000(1920)

59分(74分)

4.5(3)

29420

東京〜成田空港(JR)

1280(2940)

53分(87分)

2.5(1)

19106

浜松町〜羽田空港(モノレール)

470

22分

14(14)

82745

品川〜羽田空港(京急)

400

21分

7(7)

39904

表34:羽田、成田量空港鉄道アクセス比較(単位円、本/1時間、人/日・99年度、カッコ内は有料列車の運賃、料金不用列車の所要時間、本数)

 実際に現状の羽田・成田両空港の鉄道アクセスを見てみると、東京モノレール・京成と本数(特に特別な料金が必要ない列車)の多いアクセス路線の方がそうでない路線に比べて、1.5〜2倍以上のシェアを得ている。実際この2社は空港アクセスに関して競合する他社に先駆けて開業している為、より定着している部分もあるが、少なくとも空港アクセスに関して本数のもたらす効果が大きい事が分かる。その点で値上げによって千葉NTの人口、北総開発鉄道の乗客数の伸びが押さえられた事は今後の成田新高速鉄道にとって少なからぬ影響を与えていると言える。

2−5、値上げを防ぐ機会はあったか?

2−5−1、他社の動向

 実際赤字の第3セクター鉄道の中で北総の様に赤字の会社も多い。その中で他社はどのような対応をしていったかを見ていこう。

2−5−1−1、東葉高速鉄道

 東葉高速鉄道は96年4月西船橋〜東洋勝田台が開業、開業当初から営団東西線と相互直通したが1日の利用者は66400人と計画153100人の半分にも満たず、開業3年目の98年度に営業黒字にはなったものの利用者の低迷が続いていた。

95年支援策

千葉県:1400百万円出資

船橋市:800百万円出資

八千代市:400百万円出資

他:鉄道建設公団への元金返済5年間繰り延べ

97年支援策

千葉県、船橋市、八千代市、帝都高速度交通営団

220億円出資、80億円無利子融資

他:鉄道建設公団の償還期間の30→60年への延長

東葉高速鉄道の対応

本社移転、38人人員削減、役員削減、平日27本、土・休日20本増発、始発繰り上げ、終発繰り下げ、線内通過電車運転、施設や高架下などの賃貸業などのリストラ策を実施した。

2−5−1−2、北神急行電鉄

 北神急行は89年神戸市営地下鉄新神戸〜神戸電鉄谷上間を開業、開業当初から神戸市営地下鉄と直通と言うより神戸市営地下鉄とほぼ一体で運行されている。償却前営業収支率は98年度で約25%と非常に優良だが北総同様金利払いの営業外収支によって大きな赤字となっている。また全線2駅7.5kmで普通運賃はピークで430円と高い初乗り運賃も特徴である。

1999年度支援策

神戸市:270百万円補助

兵庫県:270百万円補助

北神急行電鉄

運賃値下げ:430円→350円を実施、99年度で利用者が2.4%増加と言う大きな効果が出た。

2−5−2、北総線の動向

続いて北総線に対して99年度まで続いた赤字に対してどの様な対応が行われたかを見てみよう。

2次支援1991〜1994年度

都市基盤整備公団:出資2,000百万円、開発者負担金80億円

千葉県:出資2,000百万円、開発者負担金80億円

京成グループ:出資2500百万円、融資10200百万円

3次支援1995〜1999年度

都市基盤整備公団:出資1550百万円、融資5200百万円

千葉県:出資1550百万円、融資5200百万円

京成グループ:出資5700百万円、融資11900百万円

他:鉄道建設公団元金返済猶予(〜1999年度)

自治体からの融資は無利子融資

北総開発鉄道:朝ラッシュ急行運転開始(93年度)、運賃値上げ(95・98年度)

 実際東葉・北神共に支援策後に増発や運賃値下げなど改良をして増客を図っているのに対して、北総は急行運転開始が目立つくらいでその他は運賃値上げと言う消極策に出ている。この消極策に出てしまった背景としては以下の事が挙げられる。

 

94

指数

現状営業収入

7475132

100

営業外損失

6132682

82.0

公団返済想定額(金利5%、返済期間15年)

11816732

158.1

公団返済想定額(金利5%、返済期間25年)

8702577

116.4

公団返済想定額(金利5%、返済期間35年)

7490667

100.2

表35:94年当時の収入と公団債務返済の状況(単位千円想定額は営業外損失から推定)

 実際94年度の決算を見ると営業黒字が計上されてはいるものの、実際債務の返済と言う視点で見ると全営業収入をもってしても金利支払(=営業外損失)をなんとか上回る程度、公団及び、千葉県から千葉NT開発者としての負担金を受けている北総に課せられた債務の返済額(15年間での支払)には届かないと言う状況にあった。

 そして当時の鉄建公団からの借入金の金利水準から考えると返済期間を25・35年と伸ばしても大きく改善する事は無く結局全営業収入をもってしても返済額に届かないと言う状況でもあった。

 さらにこの段階で初期の開業から15年が過ぎていて返済に関して目処を付けなければならない中でとにかく運賃値上で収入を増やしまた余計な支出を減らしてなんとか借入金の返済が単独で出来る自立した会社へと言う考えがあり、その為長期的な増客策に立てなかったと考察される。

株主

株数

持株比率

役員数

比率

融資額

同比率

北総線から受けるメリット

京成グループ

25400

51.0

7

58.3

197

70.1

乗客増加(99年度推定年間約26億円)

千葉県

11100

22.3

1

8.3

42

14.9

NT開発推進(開業後増加人口:71408人)

都市公団

8600

17.3

2

16.7

42

14.9

NT開発推進(開業後増加人口:71408人)

沿線市町村

1500

3.0

0

0

 

 

沿線人口増加

その他

3200

6.4

1

8.3

 

 

 

合計

49800

100

12

100

281

100

 

表36:北総開発鉄道の主な株主・役員(役員数は1時期所属も含む、出身会社、融資額:億円)

  また株主構成を見ていると北総線開業後に最もメリットを享受した様に見える開発主体である千葉県(企業局)都市基盤整備公団と言った公的主体の負担は筆頭株主とは言えNT事業のため沿線開発が出来ず決して大きなメリットを得ているとは言えない京成グループに比べて小さく、その為北総にとって最も頼りとせざるを得ない親会社の京成にとってもその後拡充されてくる連結決算制度の中で支配株を持つ北総の経営改善はゼネコンや銀行の不良再建処理と一緒で早期の解決が求められる課題であったと言え、沿線の人口増加を待っていられなかったと言える。

 とは言えこう言った背景で行われた支援策と北総の対応ががもたらした結果はこれまでに書いて来た通りである。

 

98

指数

2000

 

現状営業収入

10983781

100

12283855

100

営業外損失

5973235

54.4

4341369

35.3

公団返済想定額(返済期間15年)

11509592

104.8

9945519

81.0

公団返済想定額(返済期間25年)

8476314

77.2

6875139

56.0

公団返済想定額(返済期間35年)

7295913

66.4

5680265

46.2

営業CF

5973235

54.4

6944339

56.5

表37:98・2000年当時の収入と公団債務返済の状況(単位千円想定額は営業外損失と98年度は金利5%、2000年度は3.59%から推定)

 そして現在最新決算を見ると営業外損失が小さくなっているのがわかる。98年を境に減っているのだがこの間債務はそれほど圧縮されてない、結果的には鉄建公団への未払い金の金利が下がった為に減ったのである。(詳しくは月刊千葉NT8/15号)その為返済期間延長の効果が大きくなり、また収入や営業キャッシュフロー(償却前営業利益)も大きくなったために返済期間を25年に延長すればほぼCFの範囲内に収まり(想定では小さくなっているが誤差があるため)35年に延長すればある程度の値下げが出来る原資が出来あがることになる。

救済策

内容

鉄建公団

鉄建公団が第三次支援で5年間猶予していた元金返済を3年延長して猶予し、あわせて償還期限を10年延長して35年とする。

自治体

千葉県と都市公団の無利子融資を、第三次支援時の10年から20年に延長する。

京成

融資金利率を3%程度から0.5%程度に引き下げる。

表38:北総開発鉄道第4時支援策案(2/27日経新聞朝刊)

 そして千葉県知事選挙前に纏められた北総開発鉄道第4時支援策では償還期限の延長が盛りこまれている。まだ実施されたとは聞かないが、この案どおりに実現すれば、基本的には上でも見た通り赤字を出さず、キャッシュフローで充分対応出来る北総線値下げの条件は出揃う事になる。その際1番の問題は連結の親会社である京成電鉄に取っては連結収入の減少につながるためこれまでの経緯を考えると自治体や公団がどこまで京成に対し譲歩出きるかがポイントだと考察される。

 しかしこれまでの北総の迷走による各問題の解決には大きなチャンスである。ここで90年代に繰広げられたことの2の舞だけは割けて欲しいと言うのが筆者の切なる願いである。

2−6、まとめ

 ここまで北総の運賃値上げに関してその悪影響を中心に書いて来たがここで1つ北総線そのもの特殊条件を1回確認しておこう。

 あくまで90年代後半の運賃値上げがここまでの悪影響を与えたと言うのは上の2条件が揃ってのことである。

 また値上げを避ける為にはやはり支援策とセットになった鉄道会社側の大きな改善が必要となる。

 その上で北総線1路線のみで強引ではあるものの結論を出すならば成長過程にある新規路線において運賃値上げは禁物と言う事になる。2001年度に埼玉高速鉄道が開業し、2005年度にはつくばエクスプレスが開業すると言う現状においてこの事は特に両者の関係者(沿線住民・沿線自治体関係者・関係省庁等)において重く受け止められる事を祈るのみである。

参考文献

鉄道統計年報(94〜98年度)

北総開発鉄道の概要(第1回北総開発鉄道利用促進協議会資料)

週刊ダイヤモンド(2001年8/11・8/18合併号)

京成電鉄時刻表VOL.21

東京都交通局HP

千葉ニュータウンホームページ

千葉県

鎌ヶ谷市の情報は

街づくりかまがや

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